百三十二歩目 ココロのつよさ
2016.7.28[Thu]
彼は、
「お前たちの荷物なんてオレのに比べたら~」と口にしながら、長男のバックパックをおもむろに持ち上げ、その手を空中で止めました。
彼はブラジルから来たカポエイラの格闘家で、鍛え上げられた身体は分厚く、ギラリとした鋭い目つきが印象的でした。
一日の汗をシャワーで流した後、宿の外の長いベンチに腰掛けて片方の足首にテーピングとサポーターを巻いていました。
僕らは夕食を済ませ一息つこうとリラックスした格好で外に出たときに彼が声をかけてきました。
「お前らみたいな子どもにこの道が歩き通せるとはとても思えんな」
そう言いながら笑顔でやれやれといった感じでした。
彼はゆっくりと立ち上がり、片足をかばうようにしながら近づいてきて、まだ壁にもたれかけさせていた子どもたちのバックパックを見やり
「小さいバックパックだな」とつぶやきながら手を伸ばすところを僕はじっと見ていました。
彼は持ち上げたバックパックを無言のままそっとおろすと、子どもたちの前に向き直り、頭をさげてこう言いました。
「ごめん。お前たちを子どもだと思ってバカにしていた。まさか子どものお前たちがオレより重たい荷物を背負って歩いているだなんて思いもしなかった。足をひねって痛くて文句ばかり言いながら、今日も、もう嫌だって何度も口にした。オレは恥ずかしいよ。」
すると彼の横にいたガールフレンドが子どもたちをギュッと抱きしめながらこう言いました。
「あなたたちは立派な男よ。私が惚れちゃうくらいカッコいい男の子。奇跡をもらったわ、ありがとう」
そして彼はこう言いました。
「お前たちと約束する。もう泣き言は言わない。そしてオレも必ずゴールする。オレとお前たちは対等の友だちだ。」
がっちりとブラジル流の握手をして、一緒に遊ぼうぜと庭に出ていた人たちに声をかけ遊び始めました。
翌朝、出発の準備をしていた時、彼は聞いてきました。
「なぁ、お前たちは『もう嫌だ』って思ったことないのか?」
子どもたちは答えました。
「ないよ。だって歩けばゴールするんだもん。」
「そうか。決めてるんだな。ホント参ったよ。」
彼は眉を上げながら優しい目で見つめ返して言いました。
彼流の励まし方、彼の持つ優しさが、子どもたちの強さの種にたくさんの水を与えてくれたようでした。
旅するココロ
心に決めたことは迷うことはない
図解でわかるスタンフォードの自分を変える教室
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